クロカサゴはカサゴ目の中で中深海に最も適応しています。浮袋は無いか未発達で、鱗は取れやすく、骨も軟弱です[1]。
クロカサゴは底曵網と中層トロールで捉えられることがあること、胃内容物の調査から中深層を遊泳するカスミエビの仲間(Sergestes)を捕食していることが知られておりました[2]。このため、クロカサゴが海底付近に生息し捕食のために中層へ移動していると考えられてきました。Hoving and Freitasの2021年の研究で、300m-800mの深海でクロカサゴの姿がカメラで実際に撮影されました[2]。撮影されたほとんどのクロカサゴが口を上にして立ち泳ぎのような姿勢をとっていたそうです[2]。
大変珍しいことのように思われますが、クロシギウナギや、リュウグウノツカイの仲間でも同様の姿勢を取ることが報告されており[6][7]、中深層に棲む多くの魚で縦に泳ぐ可能性があると考える研究者もいるようです[8]。
縦の姿勢を取る利点として、水平の姿勢に比べ自分の下にできる影の面積を小さくすることができ、自分より深場にいる捕食者に見つかりにくいことや、尾の動きだけで水中にとどまることができると考えられています[6]。また、垂直方向の移動は餌の多い層を見つけるためにも効果的であると考えられています[9]。
クロカサゴのように中深層で餌を食べ、海底で排せつする行動は深海底へのカーボン輸送に貢献しているとして注目されています[10]。
本稿でご紹介する動画でもクロカサゴが水槽内で頭を上にして縦方向に移動する姿が見られます。深海でのクロカサゴの様子を推察できる貴重な映像だと思います。
クロカサゴは毒を持つ魚です（少なくとも臀ビレには毒があります）[3]。手に持つことがあれば、気をつけましょう。
レア度 ★★★★★（★の数が多いほどレアです）
1. Eschmeyer W.N. and Collette B.B. 1966. The scorpionfish subfamily Setarchinae, including the genus Ectreposebastes. Bull. Mar. Sci. 16(2):349-375.
2. Hoving H.J.T. and Freitas R. 2022. Pelagic observations of the midwater scorpionfish Ectreposebastes imus (Setarchidae) suggests a role in trophic coupling between deep-sea habitats. J Fish Biol. 100:586–589
3. Smith W.L. and Wheeler W.C. 2006. Venom Evolution Widespread in Fishes: A Phylogenetic Road Map for the Bioprospecting of Piscine Venoms. Journal of Heredity 97(3):206–217
4. 中坊徹次(編). 2013. 日本産魚類検索 全種の同定, 第三版. 1–3巻. 東海大学出版会
5. 益田一ほか(編). 1988. 日本産魚類大図鑑, 第二版. 東海大学出版会
6. Miller M., Koyama S., Mochioka N., Aoyama J., Watanabe S., and Tsukamoto K. 2014. Vertical body orientation by a snipe eel (Nemichthyidae, Anguilliformes) in the deep mesopelagic zone along the West Mariana ridge. Marine and Freshwater Behaviour and Physiology, 47:4, 265-272
7. Benfield M. C., Cook S., Sharuga S., and Valentine M. M. 2013. Five in situ observations of live oarfish Regalecus Glesne (Regalecidae) by remotely operated vehicles in the oceanic waters of the Northern Gulf of Mexico. Journal of Fish Biology, 83(1), 28–38
8. Barham E. G. 1971. Deep-sea fishes: Lethargy and vertical orientation. G. B. Farquhar (Ed.), Proceedings of an international symposium on biological sound scattering in the ocean (pp. 100–116). Washington, DC: Maury Center for Ocean Science.
9. Bjornsson B. and Reynisson, P. 2013. Synchronous and vertically undulating swimming behaviour of Atlantic cod Gadus Morhua. Aquatic Biology. 19, 13–18.
10. Sutton T. 2013. Vertical ecology of the Pelagic Ocean: Classical patterns and new perspectives. Journal of Fish Biology. 83, 1508–1527
