
フジクジラの仲間はツノザメ目ツノザメ科カラスザメ属に所属する、体長13-48cm程度の小型のサメです。フジクジラは世界中の温帯水域で見られますが、見つかる範囲は海深150メートルから1250メートルの範囲、最も多く見られる深さは400メートルから900メートルと深海を生息域としています。
フジクジラを含むカラスザメ属では体表に無数の発光器のあることが知られています。このため、フジクジラの仲間はランタンシャークと(日本語で”灯籠”サメ)と呼ばれます。フジクジラの仲間の発光器は特に腹側に多く、青白い光を発しています。この腹側の発光器には、獲物を引き寄せる効果[2]のほか、海面から深海に差し込む弱い光と同じ明るさの光を発することで、下から見上げる捕食者や獲物に対してフジクジラ自身の影を見えにくくする「カウンターイルミネーション」の効果があるのではないかと考えられています[3]。
また、フジクジラと同属のEtmopterus spinax(クロハラカラスザメ)、Etmopterus molleri(ヒレタカフジクジラ)、Etmopterus splendidus(ランタンサメ)では、背部の発光器官が種によって特定の発光パターンを示し、これが同種の認識や、捕食者に対して自分が危険であること知らせる警告信号シグナルとして機能する可能性も示されています(Duchatelet. et al., 2019)。発光器の存在は深海の多くの生物で知られていますが、サメの仲間で発光器をもつサメはカラスサメ科(Etmopteridae)とヨロイザメ科(Dalatiidae)に限られます[4]。この2つの科のサメは単一の共通祖先から進化したと考えられているのに加え、そのメンバーのほとんどは深海ザメです。このため、発光器の獲得が、フジクジラを含めたカラスザメ科とヨロイザメ科のサメの深海適応にメリットとして働いたのだろうと考えられており、いまでも研究が進められています。
ちなみに、フジクジラの仲間は卵胎性です。赤ちゃんがお腹から出てきます。その様子が写真で見られるのは貴重です。
なお、日本にフジクジラ類はフトシミフジクジラ、フジクジラ、ホソフジクジラ、ヒレタカフジクジラの4種が報告されており、このうちフジクジラ、ホソフジクジラ、ヒレタカフジクジラが駿河湾で見つかっています。これらの分類は難しく、素人の私には写真がどの種かはわかりませんでした[1]。
レア度 (★の数が多いほどレアです)
1. 中坊徹次(編). 日本産魚類検索第三版
2. Blackwell 2010. Distribution and Abundance of Deepwater Sharks in New Zealand Waters, 2000-01 to 2005-06, Ministry of Fisheries
3. Claes et al., 2010. The presence of lateral photophores correlates with increased speciation in deep-sea bioluminescent sharksR. Soc. Open Sci.2150219
4. Duchatele et al. 2019. Etmopteridae bioluminescence: dorsal pattern specificity and aposematic use. Zoological Lett 5, 9